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福岡地方裁判所小倉支部 昭和43年(ワ)295号 判決 1968年10月14日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し、金一五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年五月三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、

一、原告は、訴外横山一江に対する福岡法務局所属公証人佐藤麻男作成第九四、三六九号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基き、同公正証書の内容となつている貸金債権及びこれに対する損害金、執行費用合計金一、二二二、三二三円の債権の強制執行として福岡地方裁判所小倉支部に対し、右横山が被告に賃貸中の別紙目録記載の家屋に対する一ケ月金二五、〇〇〇円、毎月末日払いの賃料債権を目的として、債権差押及び取立命令を申請し、その結果同裁判所昭和四二年(ル)第八九四号(ヲ)第九二六号をもつて、執行債務者訴外横山の第三債務者被告に対する右賃料債権を、原告の前記執行債権額に至るまで差押え、原告は右差押債権を取立てることができる旨の債権差押及び取立命令が発せされ、この命令は昭和四二年五月二一日第三債務者である被告に送達された。

二、しかるに被告は原告に対し、昭和四二年六月、七月、八月分の前記賃料を支払つたのみで、その後の賃料を全く支払わない。

三、よつて原告は被告に対し、昭和四二年九月より同四三年二月までの六ケ月分の延滞賃料合計金一五〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状に代る準備書面送達の翌日である昭和四三年五月三日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

と述べ、被告主張の賃料債務免除の抗弁を否認した。

被告は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実はすべてこれを認めると述べ、抗弁として、被告は原告主張家屋の賃貸人横山一江より昭和四二年九月分以降の賃料債務の免除を受けたので、同月分以降の賃料債務は発生していないと述べた。

(立証省略)

理由

原告主張の請求原因事実は当事者間に争がない。

そこで被告の賃料債務免除の抗弁につき考えるに、証人横山一江の証言によると、本件家屋の賃貸人横山一江は、同家屋の敷地所有者より家屋収去土地明渡の訴を提起されて敗訴し、本件家屋を収去せざるを得ないこととなつたので、同家屋の賃借人である被告に対し、昭和四二年九月分より六ケ月分の賃料債務を免除する旨の意思表示をなした事実が認められ、この認定の妨げとなる証拠はない。

しかして、賃料債権を差押えられても、差押債務者としては、差押債権者を害する意図をもつてなされる虚偽表示でない限り、適法に賃料債務の免除をなし得るものと解するのを相当とするところ、本件において、訴外横山が被告に対してなした賃料債務の免除は、前認定のような事情の下になされたもので、別段差押債権者である原告を害するためになされたものとは認められないから、右債務免除は有効であり、従つて原告主張のような被告の延滞賃料債務は存在しないものというべきである。よつて原告の本訴請求は理由がないので、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

北九州市小倉区板櫃地先埋立地無番地

家屋番号 日明九九一番

一、木造瓦葺平屋建住居兼倉庫

建坪 三〇坪

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